1 処方の具体的内容は? |
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40 歳代 男性
<当該内科クリニック>
処方(1)(1 月 17 日)
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ハルシオン錠(0.25 mg) |
1 錠 |
1 日 1 回 就寝前服用 |
7 日分 |
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<A 皮膚科医院>
処方(2)(1 月 10 日)
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イトリゾールカプセル(50 mg) |
2 Cap |
1 日 1 回 朝食直後服用 |
7 日分 |
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2 何が起こりましたか? |
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- 内科クリニックに、不眠の訴えで受診した患者にハルシオン<トリアゾラム>を処方した。患者が皮膚科にかかっていたことは承知していたので、併用薬を尋ねると、「今朝まで皮膚科からもらったイトリゾールカプセルという薬を飲んでいました」との返答だった。内科医は「イトリゾール<イトラコナゾール>とハルシオンの同時服用は禁忌」であることはよく認識していたが、この場合イトリゾールの服用は今朝までであり、一方ハルシオンは、今晩からの服用なので、半日ほど間隔があいているため問題ないと考え、そのまま処方した。
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3 どのような過程で起こりましたか? |
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- 表在性皮膚真菌症のために皮膚科においてイトリゾールの治療が開始されていた。
- 1 月 17 日の朝、イトリゾールを飲み(最後の服用)、その日の就寝前にハルシオンを服用することになる。この場合、イトリゾールとハルシオンの服用は同時ではなく、少なくとも 12 時間以上の服用間隔があると考えられる。したがって、内科医は、同時服用ではないため特に問題はないのではないかと考えていた。
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4 どのような状態 (結果) になりましたか? |
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- イトラコナゾールの血中から消失半減期は長いため、この程度の服用間隔では両剤の相互作用が起こる可能性があるので、ハルシオンの使用は避けることが必要であると、処方せんを受け付けた薬剤師から疑義照会があった。その際、服用時間間隔をあけてもイトリゾールによりトリアゾラムの血中濃度が上昇した臨床試験の文献がファックスにて送られてきた [文献 1)](図参照)。
- その文献を参考に、12 時間程度服用間隔をあけてもトリアゾラムの血中濃度が上昇し、危険であると判断した。そこで、ハルシオンを変更することにした。
- ベンゾジアゼピン系薬剤のほとんどはチトクローム P450 3A4(CYP3A4)で代謝されるため、別の代謝経路である、グルクロン酸抱合代謝(イトリゾールとの相互作用が少ないと考えられる)で消失するロラメット<ロルメタゼパム>に処方変更することにし、その旨を薬剤師に伝えた。
変更後の処方は以下の通りである。
<内科クリニック>
処方(3)(1 月 17 日)
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ロラメット錠(1 mg) |
1 錠 |
1 日 1 回 就寝前 |
7 日分 |
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5 なぜ起こったのでしょうか? |
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- 薬物相互作用(特に禁忌となる薬剤の組み合わせ)には注意を払っていたが、「半減期の長い薬剤では、同時併用でなくても相互作用が惹起する場合がある」ということをうっかり忘れていた。
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6 二度と起こさないために、今後どう対応しますか? |
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- 一般的には「同時に使用することは問題があっても、それぞれの薬剤の時間をずらせば問題ないのではないか?」と思いがちであるが、服用時間をずらしても相互作用が生じる場合も、少なからず存在することを考慮に入れる必要がある。
- 本相互作用はイトリゾール中止後も起こる可能性があることは、イトリゾール、ハルシオン、いずれの医療用添付文書にも詳細には記載されていなかった(「パルス療法中の患者において休薬期間中に新たに他の薬剤を併用する場合にも、患者の状態を十分に観察し、慎重に投与すること。」の記載のみ)。従って、最新の文献から常に薬物相互作用情報を収集することも必要であると考える。
- 添付文書を読む際にも薬剤の半減期など、薬物動態学的な項目にも注意すべきであろう。
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7 その他特記すべきことは? |
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- アゾール系抗真菌剤であるイトリゾールとハルシオンの同時併用によってトリアゾラムの血漿中濃度は大きく上昇する[文献 1)](図参照)。
- これは、イトラコナゾールのイミダゾール環の窒素の部分がチトクローム P450 (CYP) のヘム鉄の第 6 配位座に配位して起こるとされている。チトクローム P450 はどの分子種でもヘム鉄を持っているので、イトラコナゾールはどの分子種で代謝される薬物でも非特異的に阻害する可能性があるが、消化管や肝臓に存在する CYP3A4 に対する阻害作用が最も強いと考えられている。このようなことから、トリアゾラムとイトラコナゾールの併用は禁忌となっている。
- では両剤の服用の時間をずらせば大丈夫かというとそうではない。イトラコナゾールの血液中消失半減期は 30 時間と長く、また代謝部位である肝臓への蓄積性も高いために、イトラコナゾール中止後も数日間は相互作用が惹起する可能性があり、注意が必要である。
- イトラコナゾール最終服用後 24 時間においても、トリアゾラムの血液中濃度は単独服用時に比較して AUC にして 3.8 倍も増加すると報告されている [文献 1)] (図参照)。
- 戸井らの薬物動態解析の結果、イトラコナゾール服用中止後、少なくとも10 日間はトリアゾラムとの相互作用は回避できないという結果が報告されている[文献 2)]。従って、イトラコナゾール投与終了後 2 週間弱程度は CYP3A4 の基質となる薬剤(多くのベンゾジアゼピン系の睡眠薬など)の服用は回避する必要があると考えられる。
[参考文献]
1) Neuvonen PJ, Varhe A and Olkkola KT, Clin. Pharmacol.Ther.60: 326-331,1996.
2) 戸井亜由美ら、日本薬学会第125年会講演要旨集(2) pp.194、東京、2005
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