以下に、会員にお送りしたメールマガジンの実例を示します。
なお、実際には事例の後半はメールマガジンではなくサイト内に掲載されます。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ ┃「ヒヤリハット」コーナー(51) ┃ ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━┛ 《薬剤師の不十分な服薬指導のため、目の不自由な患者が乾燥剤を内服》 <薬局はどこ?> 病院の薬局・薬剤部 <薬剤師の経験年数などは?> 調剤した薬剤師の経験年数 : 1 年以上 2 年未満 鑑査した薬剤師の経験年数 : 10 年以上 20 年未満 服薬指導した薬剤師の経験年数 : 半年未満 <処方の具体的内容は?> 73歳、男性 <処方1>(オーダー/印字) ------------------------------------------------------------------------ プロレナール錠 6 錠 1 日 3 回 毎食後 14日分 ------------------------------------------------------------------------ (※投稿された事例に忠実に記した。) ・患者の視力はあまりよくない。 <何が起こったか?> ・薬剤を服用せずに、誤って乾燥剤(シリカゲル)を服用してしまった。 <どのような過程で起こったか?> ・プロレナール錠は吸湿性を有するため、当該病院薬剤部では、端数以外はアルミ包 装を開封せずそのまま調剤し、患者に交付していた。当該患者にも、アルミ包装のま まプロレナール錠を調剤し交付した。 ・帰宅した後、患者は視力があまりよくないこともあって、プロレナール錠を服用す る際に、「薬が変わったのかな?」と思いながら、薬剤ではなく、乾燥剤(シリカゲ ル)を服用してしまった。 ・その後(どのくらい日数が経過していたかは不明)、患者は家族に対して「薬をとっ てくれんか。」と頼んだ。その時、患者は「また、薬が変わったのかな?」と言った ので、不審に思った家族が当該患者に尋ねたところ、乾燥剤(シリカゲル)を服用し ていることが判明した。 <どのような結果になったか?> ・患者の家族から薬剤部へ連絡があり、誤って乾燥剤を服用したことを告げられた (その時の薬剤部の対応等は不明)。その時、患者の家族は「アルミ包装の中に乾燥 剤が入っていることを一言告げてほしかった!」と言った。 ・患者の容態に特に変化はなく、幸いなことに有害事象は起こっていない。 <なぜ起こったか?> ・薬剤師は、患者(あるいはその家族)に、プロレナール錠のアルミ包装に乾燥剤が 入っている旨を説明しなかった(「乾燥剤を服用しないように注意して下さい」など) 。また、当該患者は目が不自由であることからこのような説明を特にしっかりと行う 必要があった。 <二度と起こさないために今後どう対応するか?> ・患者は視力がよくなかったこともあり、誤ってアルミ包装中の乾燥剤を服用してし まったが、薬剤師が薬を交付する際に、アルミ包装に乾燥剤も入っていることを告げ れば、このような事態には至らなかったと推測される。本事例は薬剤師の服薬指導不 足が招いた事故であり、患者側に問題があると捉えてはならない。 ・服薬指導した薬剤師は、患者が乾燥剤を服用するとは思ってもいなかったと推測さ れる。しかし、PTP包装のまま薬を服用してしまった例も多数あり、このような別物 (薬剤以外)服用の例は意外に多いと考えられる。薬剤師の立場から見れば一見して 問題ないように思えることでも、患者によっては誤った行為となってしまうこと、困 難な行為となってしまうことは少なくない。患者の立場に立って服薬指導を行い、特 に本事例のように、特殊な調剤を行った場合においては、注意が必要である。 ・また、本事例のように視力障害のある患者や聴力に障害のある患者などには、家族 に電話で服薬指導を再度行うなどの配慮も必要であろう。 <その他特記すべきこと> ・アルミ包装から PTP を取り出して乾燥剤なしで交付することは可能であろうか? 安定性試験結果では、プロレナール錠はPTP包装で35℃・95%RHの条件で1ヶ月は安定 である(25℃・75%RHでは6ヶ月間は安定)[文献1)]。今回の処方のように 14 日間で 飲みきる場合には、アルミ包装(2 袋)から PTP を取り出して交付しても特に問題 はないと考えられる。しかし、患者が薬剤を保管する状況が悪い場合(高温多湿にな る車中や風呂場に置かないよう指導することは当然である)、更に 60 日というよう な長期投与も可能となった現在では、アルミ包装のまま患者に交付することが必要な 場合もある。 ・アルミ包装 1 つには PTP として薬剤が 42 錠入っているが、用法用量、服用日数 によっては端数が生ずる可能性がある。この様な場合には、湿気を通さない別のファ スナー付きビニール袋に、乾燥剤とともに入れて交付するなどの工夫も必要であろう。 また、開封したアルミ包装は再度密封できないため、乾燥剤が役目を果たさない。従っ て、これを回避するために、アルミ包装から取り出した残りの PTP もその袋に入れ て保管するように指導することも可能であろう。 [文献] 1) プロレナール錠インタビューフォーム |