東京大学大学院薬学系研究科 医薬品情報学講座 医薬品ライフタイムマネージメントサービス 育薬セミナー

UPDATE:2005/12/27

東京大学

「育薬」とは?
 医薬品が市販された後(通常、「医薬品市販後」という)、医師や薬剤師は、医療用添付文書などの情報に遵守して適正な使用(これは正確には「医薬品適正使用」という行為である)を実践する。しかし、多くの患者への適用が行われてはじめて種々の疾患に対してより最適な新しい使用法(例えば新しい適用外効能効果や新しい使用法など)や副作用・有害作用(創薬臨床試験の段階では数百人から多くても千人のオーダーの患者が参加しているが、何万人、何十万人に1人現れるような希だけれど重篤な副作用は市販後でなければ見いだせない)が発見されること、また市販後に積極的に臨床試験を組むことによって薬の真の実力が明らかとなること(例えばある種の高脂血症治療薬は創薬臨床試験段階の評価指標である血中総コレステロール値の比較的短時間の減少による薬の有効性の評価が、より長期の市販後臨床試験の評価指標である心血管系合併症である脳卒中や心筋梗塞の発現や死亡率の減少と一致したというような場合など)、薬によっては創薬の臨床試験段階の有効性と安全性の評価が市販後の臨床試験・評価により覆される場合があること、臨床試験によってより適切な使い方に関する情報が積極的に得られること、薬の不適正な使用によって世の中から駆逐される場合があること(例えば医薬品不適正使用が原因のソリブジン薬害によって、本来その薬の恩恵に浴すはずの患者に適用できなくなった例など)がある。
 これら市販後における状況に対して、従来から「薬の創薬」としての「創薬」に対して市販後における「薬の適切な使用」と理解しての「医薬品適正使用」という言葉が使われてきた。しかし、「より適切な使い方に関する情報を得ることによってより有効でより安全な使い方に関する情報を増やす」というイメージが「育てる」という感じに近いことから、「育薬」という名前が適当であろうと判断した。
 薬剤師の日々業務としての「医薬品適正使用」と、それを一歩進めて医薬品市販後の諸問題を積極的に取り出し、それらを的確にかつ迅速に解決する「育薬」には、「医薬品開発は創薬だけでは決して終わるものではない!市販後も綿々と続き、薬を正しく使って上手に育てる!正に人類の財産、百年の歴史を持つ “アスピリン”へと進化させるのだ!」という願いが込められているのです。